心温まる傑作
「今に見ちょれ」という半次郎の立身への意気込みが伝わってきて、また薩摩弁でほとんど
かたられていることからも、薩摩隼人の人情、温かみが伝わってきた。
京での活躍とともに、純粋無垢な半次郎から、権力の魔性にかかってしまった半次郎を見事
に描き出しており、城山での最後の様子も半次郎らしく、あっぱれであった。
後半になるにしたがって、次第に傲慢になっていくのだが、下僕の幸吉と同じようにように
どこか憎めない。
所々の筆者の歴史解釈にちょっとなじめないところもあったが、西郷と半次郎が二人で語り
合う場面などは心を打つものがあった。
なんともすがすがしい青春ものとして
青春ものと言うのは、なんとも楽しい。
そ、かの人斬り半次郎にして、初代陸軍少将桐野利秋二してからに、この青春のまっただ中は実にすがすがしく、楽しいではないですか。
幕末モノはたくさんあり、特に司馬遼太郎の作品はとみに有名であります。しかし、この作品のように歴史の脇役(と言うには、中村半次郎は大きいかも知れないけど)、ともすると主役のような、西郷、桂、高杉、そして坂本の有名でかつ劇的な人生の影で、ついと忘れられているものたちを語る作品がこのごろ好きですね。浅田次郎の壬生義士伝がその典型ですが。
だれにも、やはり素晴らしい人生があり、幕末は大いにそのような若者たちの光が放たれた場なんだと、実感させられるすがすがしいいい作品でした。
人に惚れる、人が惚れる半次郎
池波先生の描く男たちは皆、格別の愛嬌をもっていますが、中でも一番といってよいのが本作の主人公・中村半次郎です。 その前半生にあたる幕末編では、とにかく何事にも一途で、ひたむきな半次郎がめいっぱい描かれています。薩摩の芋侍と蔑まれた時期、野心はあっても卑屈にはならず、己の力を信じて剣の道に活路を見出そうとする半次郎は、決して自分本位に出世を望むのではない、母や妹ら家族の幸せを心から願うまっすぐな心根の青年。 なかなかの美丈夫で腕はたつのに、心を許した人間には滅法甘えん坊になるところがなんといっても魅力です。そういう相手に対しての独特の声音「はァい」は、もうそれなしでは半次郎ではないというくらい目に焼きついて、いちいち読み手の心を解かします。 女性との関わりから導き出される半次郎の優しさや純粋さも見事。 薩摩で情愛を交わした幸江に抱きつづける深い想いや、初めて触れた京の女・おたみに対する疼くような少年めいた恋心、師であり友であり性愛の対象でもある法秀尼との広い意味での情交、それらすべてが半次郎という人間の繊細な部分をすっぽり包み込んで護ってくれているように感じました。 同じく西郷隆盛への崇敬も無防備すぎるくらいまっすぐで、なんの打算もなくただ感じるままに人を信じ敬う半次郎の心の美しさが眩しいくらいです。こんな風に思われたら、裏切れまい。 「人斬り」と題されてはいますが、度々命の危険に曝される緊迫した剣戟シーンがあるにも関わらず、殺伐とした幕末の陰惨さを感じないのは、こういう人との関わりあいの中で、半次郎が人としての本分を失わず剣を振るったというなによりの証拠でしょう。 ただ、その合間にも冷静に幕末の薩摩情勢を捉える池波先生の視線があって、徐々に半次郎の心構えも変わっていくのが手にとるようにわかるので、賊将編でどんな変化が出てくるのか、目が離せません。
半次郎に興味がなくても読めます
人斬り半次郎と異名をとった中村半次郎、後の桐野利秋の半生を書いた小説の前編、幕府倒壊の直前までを描いている。 独特の池波ワールドで、一気に読んでしまうおもしろさがあります。 歴史に詳しい必要もないかもしれません。単体の小説としてもおもしろく書かれています。 半次郎について書かれた本も、それほど多くはありませんから、そいういったことにも一助になるかもしれません。 おすすめです。
人間って・・・
主人公の半次郎は聖人君子ではない。出世するに連れ驕りが目立つようになり、最後は戦死を遂げる。 人間なのだからそうなるのも仕方ないと思うが、あまりの変わりように明治維新という時代の流れが、その時代の人間に及ぼした影響を改めて思わされた。
新潮社
人斬り半次郎 賊将編 (新潮文庫) 西郷隆盛 (角川文庫) 人斬り以蔵 (新潮文庫) 陽炎の男 (新潮文庫―剣客商売) 上意討ち (新潮文庫)
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